Special Super Love

− 最終話 −




「今週は何も無いから、2人きりで過ごそう」

木曜日の夕方の部活に、手塚は当たり前のように参加して週末の予定をリョーマに告げた。
「うん。ね、国光は受験勉強って無いの?」
いつも部活に参加するのは手塚だけだ。
他の3年生は、時々しか現れない。
3先生ともなれば受験勉強があるのが学生の辛い所だ。
一緒にいられるのは嬉しいが、これで失敗でもしたら元も子もない。
心配そうに見上げるリョーマの頬に手を掛けて、柔らかい頬をゆっくりと擦る。
「大丈夫だ、俺は高等部に進むからな」
「そうなんだ」
高等部へ進むのに受験なんて必要ないから、こうして部活に参加しても全く支障は無い。
だからと言って勉強を疎かにはしない。
常の授業はしっかりと受け、予習や復習も決して欠かさない。
恋に溺れていても、文武両道な手塚国光は何事においてもしっかりしていた。
「あぁ、だから心配をする必要は無いぞ」
「本当?嬉しい」
綺麗な笑顔を向けられれば、手塚の表情は一気に緩む。
「あー、またバカップルが何かしてる〜」
少し遅れてやって来た菊丸は、コートの端でイチャついている2人を見て、いつもと同じセリフを吐く。
「やはり、菊丸か…」
はぁ、とやたら大袈裟な溜息を手塚は吐いた。
菊丸は2人が一緒にいると、必ず『バカップル』と言ってくる。
しかもその台詞に、次第に慣れつつある自分がいるのも確かなのだ。
「ま、今日は手塚をおちょくりに来たワケじゃないんだにゃ。おチビ、今日は俺と打たない?」
いつもの人なつっこい笑顔は完全に消え失せ、試合中でしか見られない真剣な表情をその顔に浮かべてリョーマに話し掛ける。
「菊丸先輩?」
ただならぬ気配に、リョーマも身構える。
「ちょっとさ、俺も危機感ってのがあるんだよね」
「危機感?」
菊丸も手塚同様に青学の高等部へ進学する。
無論テニスは続ける。
高校へ入ればより強くなる必要性がある。
プレイスタイルがサーブ&ボレイヤーの菊丸としては、どんなボールに対しても、ネット際で処理できるようになりたいと考えている。
それはダブルスにおいて最も威力を発する。
ダブルスを組んだ相手にもよるが、信頼関係を保つ為には、もっと強くならなくてはいけない。
青学ゴールデンコンビと称されていた大石とは、既に太くて強い信頼関係で結ばれているが、高等部でも大石と組めるとは限らないのだから。
自分はまだまだ、未熟なのだ。
「だからさ、俺の相手してよ」
「わかりました。俺は手加減しませんよ」
「あったり前だよ、手加減なんてさせないよん」
持っていたラケットをリョーマに向けて、口の端だけを上げてニヤリと笑う。
「だから、手塚は他の人とやっててよな〜」
神妙な面持ちで聞いていた手塚には「じゃ、おチビ借りてくね〜」とだけ言い、軽やかなステップでリョーマを連れて行ってしまった。
残された手塚は、「たまにはいいか」と、久しぶりに下級生の練習を見る事にした。
今年はリョーマのおかげもあって、青学の全国制覇を成し遂げたが、来年からはどうなるのかわからない。
2年生で力があるのは、桃城と海堂の2人。
この2人と他の部員を比べてしまうと、他の部員達がどうにも劣っていると感じる。
いや、この2人の力が飛び出ているのも確かだ。
練習によって強くなるのならば、乾の手を借りてそれぞれの練習メニューを作ってもらおう。
自分達が中等部からいなくなっても、まだ桃城や海堂達がいる。
そして、次の『青学の柱』と認めたリョーマがいる。
「来年も全国にその名を轟かして欲しいものだ」
自然に手塚の口に笑みが浮かんだ。
その笑みを『菊丸先輩に越前を連れて行かれて、怒りのあまりに笑っているんだ』と、思い込んでしまった部員は数知れず。


「リョーマ」
「何?国光」
部活の後は、手塚の家で過ごすのが日課。
先に軽くシャワーを浴びた後、部屋のベッドに腰掛けていたリョーマは、数分後に戻って来た手塚に話し掛けられていた。
「菊丸の相手はどうだった?」
「やっぱり面白いね。でも…国光の時みたいに、ワクワクしないけどさ」
菊丸も天才肌と言われるほど、かなりのテクニックを持つプレイヤーだが、ただ一つ欠点が有り、そのアクロバティックなプレイは体力を削る為、試合が長時間になるとかなり辛くなる。
「そうか…」
リョーマの横に座ると、同じソープの香りがする身体を抱き締めた。
優しい抱擁では無く、全ての動きを奪い去るような強い抱擁。
「…ん、どうかした?」
腕すらも動かせないこの状態に、リョーマは声と目線で訴える。
「いや…別に何も無い」
ただ、リョーマの言葉に嬉しさを感じているだけ。
「ふーん、だったら少しは力を緩めて。俺も国光に抱きつきたい」
「わかった」
少しだけ力を緩めると、リョーマはぎゅっと抱きつく。
抱き合うだけでは足りなくなると、何度も何度もキスを交わす。
このままベッドへと沈んでいきたいが、これから手塚の両親と食事タイム。
「国光、続きは後でね」
次第に深くなっていくキスを止めたのはリョーマだった。
「…今日は離さないからな」
手塚もリョーマの行動を理解したのか、キスを止めた。
「ん、俺も放さないからね」
最後にリョーマからのキスで終わらせると、先に夕食を済ませる為に部屋から出て行った。
食事を済ませた2人が、この後どうなったのかなんて、言わなくてもわかっているだろう。
2人は誰もが認めるラブラブのバカップルなのだから。



出会いは本当に突然だった。
それから今までずっと好きでいた。
これが、甘い恋愛だと自覚している。
どんなお菓子にも負けないほどの甘い味。
だって、好きなんだから仕方が無い。
いつまでもこの気持ちでいたい。
この恋は特別なのだ。
特別に甘く味付けされた恋。


2人の為だけの…。




これで終わりです。
やっぱり塚リョはラブラブが1番ですね。